201X.5 「義兄さんが知ったら、なんて思うかな?」  いたずらな笑みを浮かべながら、手元を操作し弟は言った。  私は椅子にもたれて脚をM字に広げ、弟が持つ玩具のされるがままになっている。口には綿の晒を噛まされて、なにも言えない状態だ。  どうしてそんなことを言うの。私が抗えないと知っていて。  弟は笑顔のままで、私の秘部に玩具を当てたり離したり繰り返している。当てるにしても、ほんのかすかに、私の突起にそれが触れる程度の間隔を保っていて、離すにしても、振動していることが空気を通して肌に伝わってしまう場所で。 「ねえ、気持ちいい?気持ちいいなら、ないてみせて」  弟がこうなったのは私のせいだ。だからここに、私の欲求の理想があって当たり前のことなのに。弟の一言一行にうっとりしてしまう。 「義兄さんじゃこんなふうにしてくれないって、言って。僕にもっとされたいって言って」  猿轡をさせているのだから、言葉を発せないとわかっている。それでも弟は私が求めることを求めてくる。その台詞は私が求めてきたものだからだ。 200X.?  もうちょっと、もうちょっと。  今にも溢れそうな声を堪えながら、頂に導く場所を探す。右手に持った安物の玩具はひどくモーター音を鳴らし、私の中でうねっている。左手は乳頭の先の敏感な部分を撫でていて、その気持ちよさ故に場所探しがなおざりだ。  もうちょっと、もうちょっと。  快感を覚えながら、それだけに夢中になれないのはつらいものがある。けれども、最後まで迎えたいという欲求もある。セックスだったらそんなことはないのに。  玩具を一度半分のところまで抜いて、もう一度、じれる速度で奥へ押し込んだ。膣の表面を物が這っていく感覚がなんともいえず、そのまままた私の場所を探す。  玩具そのものもうねっているというのに、私は手首を返すように動かしながら、中の壁を満遍なく撫でるようにする。あ、だめ。  玩具の先端が私の点を引き当てて、足の指先のほうへ一本の矢が刺さったような錯覚をさせた。いく。言いそうになるのを耐えて、玩具がその点を刺激するようにひたすら押し付けた。  目の前で渦が描かれ、体内の血液が巡る轟音が耳に聞こえそうだ。私は果てた。  自分を慰めることはもう慣れたものだ。家族の帰宅を恐れて、余韻に浸る間もなく服を着ようと動いた。その時だ。 カチャリ  まさか、という思いから、光景がゆったりと流れた。部屋の扉が金属の音を鳴らしながら開いて、開いた扉の先には弟が立っていた。 「姉ちゃん……」  様子から察するに、私のしていたことを知っているようだった。  焦るべきことなのに、私は落ち着いていた。むしろ、胸の高鳴りを感じていた。これはどういうことだろう。 「聞いてたの?」  私の問いに弟はこっくりと頷き、気まずそうに目を逸らした。 「でも、でも、誰にも言わない。秘密にするから」  顔を赤らめ、体の前で組んだ手をもじもじと動かしながら、私が怒らないかをうかがっている。怒るどころではない。どうしてか、私は喜んでいる。私の行為に巻き込む相手ができたと。  服を着ている途中だったのでまだ半裸だったが、かまわず弟に近づいた。弟はびくりと一歩下がって「秘密にするから」と消え入りそうな声で言った。  確かに、秘密にはして貰う。でも、それじゃ足りない。知ったことを明かしたのだから、それなりにもっと、私と公平になるような状態になって貰わないと。  硬直する弟の手を取って、望むことをぶつけてみた。 「ねえ、よくして」  この子はとても不器用だ。私の自慰に遭遇したところで、黙っていればよかったものを。自分の内にとどめることができなくて、明かしてきたのだ。  私は弟の体を引き寄せて、断る選択肢はないという態度を取る。本当は想像してもこなかった大胆な自分の行動に、戸惑いすら覚えているというのに、止めることができない。  私を気持ちよくしてくれるものを手に入れられるかも知れない。  私は頭に浮かぶ自分の悦楽への貪欲さに呆れてしまいそうだった。 「ん、そう、そう。あ、そこ」  目を閉じて、体になされていることに集中した。私に出入りするそれは、往復し円を描き、まるでクランクのように規則正しい。 「ああ、んっ、ん」  自分で動かしているわけではないので、自分の頭を使う必要はない。私は快感に入り浸っていられる。薄目を開けて弟の様子を見ると、真剣な眼差しで手を動かしていた。私の指示通りになるように。テンポよく同じ動きが刻めるように。  実の姉に自慰の手伝いをさせられて、嫌悪感を持つか欲情してしまうかしてもいいものを、元来の生真面目な正確が災いし、必死に私をよくしようとしている。  弟についてなにかを考えようとしたが、今はとにかく悦を得たく、体が昇りあがることに意識を向けた。 「はあ、はあ」  私は絶頂し、息を切らしていた。弟はそんな私を見ながら、この後はどうするべきかと私が命じるのを待っている。 「ねえ」 「ん?」 「なにか言って」  なにもないところに物を生み出せという理不尽を押し付けたが、自慰を手伝わされている時点でかなりの理不尽を受け入れており、弟は私の要求に従った。 「気持ちよくなれた?」 「うん」  ありきたりではあるが、合格としよう。私はピロートークのような台詞を期待していたようだ。 「こんなことさせられて、どう思ってるの」  やめるつもりはないが尋ねてみた。弟は少し詰まって 「姉ちゃん、きれいだね」  と返してきた。 「ねえ」 「ん?」 「もっと覚えて。もっと私をよくして」  私の言葉で、服越しに弟のものがいきり立つのが確認できた。私の裸を見ても自慰を見てもその生理現象を起こさないのに、この求めで反応する。きっと弟には“私の理想”になる素質があると確信した。  しばしの無言があった。私と弟の間に、緊張の空気が流れる。いたずらや秘密を共有したような、子供の頃の感覚。「二人で楽しいことしようよ」と、弟をいいように扱う時の幼少の私が思い出される。  弟の返事のない了解を感じて、私は最高の遊び道具を得たと心を躍らせた。 201X.6 「ねえ、気持ちいい?」 「うん、うん」  弟は私の太ももの内側にバイブを当てて、細長い丸を描くように動かす。 「へえ。こういうことされて、嬉しいんだね。よく見えてるよ」  私の大陰唇に人指し指をかけて、横へ広げた。今まで隠されていた中が空気に触れて、少しひやりとする。私は焦った。 「ちょっと待って。直接触るのは」 「なに言ってんの。今までこんなことしてきたくせにさ。俺に一切触らせずに、性欲処理してきたんでしょ?」  私は上半身を起こして弟を止めようと試みたけれど、弟は持っていたバイブを放り投げて、肩を押しこんだ。寝転がる体勢に戻される。 「俺は一度も逆らってないよ。姉ちゃんを気持ちよくしてきた」  いつもと違う弟の態度に戸惑いながら、指でつままれて伸ばされる大陰唇に気が散る。 「もう最後でしょ、そう言ったよね。義兄さんと一緒になるから?へえ、面白い理由だね。このままではダメなんだ」  泣き出すのを堪えるような、歪んだ顔をしている。 「勝手だよね」  弟の言葉に抵抗を強めることができずにいると、つまんだ指はそのままに、中指を突起に触れさせてきた。太ももへの愛撫ですでに十分濡らしていた私は、ぬるぬると動くその感触に思わず声をあげそうになる。今、はっきり言わないと、弟をエスカレートさせてしまうだろう。 「ダメだから、最後って言ったの。約束を守ってくれないなら、もうしなくていいから。離して」  弟は蔑んだ目で私を見ながら、指を止めて離す。とりあえずは触ることをやめてくれた、とホッとすると、内ももをめがけて張り手が飛んできた。 「痛っ」  私になにが起きたか認識させる暇もなく、左脚の膝を抱えて自分の股間を私の秘部におしつけてきた。 「ちょっと、なにやって」 「このままじゃなきゃダメの間違いだろ。義兄さんじゃこんな快感を与えてくれないって、言えよ」  弟は私を指で弄ぶ間に脱衣していたらしく、互いに素肌の状態で性器を合わせていた。 「待って、ちょっと、ねえって」  弟は空いたほうの手で自分のものをつかみ、私の膣口に沿わせてくる。それはしっかりと、私が「バイブを挿入するときはこうして」と教え込んでいたとおりのものだった。 「都合よかったろうね。僕が欲情してないとでも思ってた?そんなわけないよ」  弟が先走ったものなのか、自分の愛液なのか、粘性を感じる。困ったことに、自分の愛液ではと疑うくらいには、この状況でも快楽を覚えていた。膣口から突起を少し過ぎたところまでを、弟の一物がなんどもゆっくりと往復する。 「あっ、あっ」  させまいと体をかわそうとすることも忘れて、その気持ちよさに思わず腰をあげてしまう。弟は私の教えた蔑みの目と、本心であろう懇願の表情を交えて、呟くように言った。 「最後でしょ。させてよ」  直接触ることは一度だって許してこなかったのに、私のイイトコロをよく心得ている。確かに勝手よね、あなたの兄さんとなる人よりも長く、あなたは私とこうしてきたのだから。 「……わかったわ」  私は弟の頼みに折れた。というよりも、自分自身も弟の下半身の誘惑に勝てなかったのだ。実は初めて目にする弟の性器は、予想していたよりもずっと立派で、試してみずにはいられなくなってしまったのだ。  弟は私の返事に息をとめて、膣口に密着するように自分の亀頭をあてた。緊張しているのか、私の上に汗を滴らす。先ほどまでの工程で私はもう十分に準備できていたのだが、一気に押し入ってくるようなことはしない。膣口に、隙間なく、密着させるだけ。その密着具合に強弱をつけて。  私は焦れた。いいと言ったからには、今度はこちらが待ち遠しくなってしまう。 「ねえ。していいのよ」  呼吸を乱しながら言うと、弟はにっこり笑った。 「姉ちゃんが教えたんだよ」  膣を割り入る感覚がし、そしてまた引いていく。少しずつその進む距離を長くしながら、弟の亀頭までが私に入ったようだった。太く、はちきれんばかりに張り詰めた弟のものは、強い存在感を放っている。私ははやく奥まで入れてしまいたくなった。腰を動かしてみる。 「ダメだよ」  体をひかれて、弟が去る。 「一度きりのつもりだから。ちゃんとそのつもりだから。だから、ちゃんとさせて」  唇に触れないぎりぎりのところ、頬のところに口づけをし続ける。 「僕の体で感じて」  私は弟の言葉にぞくぞくして、されるがままに身を任せた。亀頭まで入れる行為を何度か繰り返してから、自分の愛液でひたひたになった私に押し入り、奥をリズミカルに突き出した。 「はあ、はあ、やっぱ、手を動かすのとじゃ、わけが違うね」  慣れない動きに苦笑する。その姿に、まだこの関係が始まったばかりの頃の、私に口頭で教わる姿が重なった。 「待って」  脇腹を掴み、静止させる。 「え?」  入れることを許諾させるまでの強気な弟はどこへやら、やはりいつもの癖なのか、私の指示をきいた。私はそんな弟と結びついたまま、胸を押して仰向けにさせる。それと同時に弟の上にのった。 「なんで」 「いいから。気持ちよく、してあげる」  弟が操るよりももっと深く奥に到達した結合は、私を淫らにする以外のなにものでもなかった。気持ちよくしてあげるなんて言いながら、やっぱり自分自身の悦びを追っている。  私がすべるように腰を前後にすると、弟は「あっ」と声をあげた。 「出し入れじゃなくても、気持ちいいものでしょ」  自身の中がよく掻き回されるように、弟の腹部に手を置いてバランスを取り、グラインドを続ける。ささったものが円を描いて、私の体内で存在感を増す。挿入まえ以上に、弟の陰茎は怒張しているようだ。 「気持ちいい?気持ちいい?」  このままイけそう。そう思いながら欲求がままに動きを小刻みにしていたら、弟が私の腰を掴んだ。 「気持ちいい。もう無理」  私の動きを制御したまま、唐突に下から突き上げはじめる。もうちょっとで果てそうというところで別の角度からの刺激が加えられて、私はどうかなってしまいそうだった。 「やっ、待って……あっ」  イったような気がする。けれども弟がピストンをやめる様子はなく、私が余韻に浸ることはできなかった。今まで気づいていなかった弟の腕の筋肉。その男らしく筋肉のついた腕で、私を上下させる弟。 「待って、イっ……イったから」  私の言うことに耳を向けずに、弟は呼吸と動きをはやめていた。私にはひとつの余裕も残されていない。擦れることでやってくる気持ちよさと、突き当てられることでの気持ちよさと、そして心のどこかに、これまで自慰の道具にしてきた弟に好きにされているという敗北感のような服従と。 「イく」  それまで委ねて、悦楽の上に重なる恍惚を浴びていたのだが、弟の声に咄嗟に飛び退け、射精されてしまうことをかわした。弟は目を閉じて息を切らしている。体を捻って弟のものを確認すると、意思から離れてビクンビクンと波打っていて、弟の下腹部だけでなく避けた私の尻へまで精液がついていた。  虚ろに私を見る弟に、いつもの立場をとってみせる。 「気持ちよかったでしょ?」 「本当は、気持ちよくさせてみたかったんだけどな」  ズボンを上げながら弟は言う。 「ん……気持ちよかったけど」  同情の念などではない、事実を私は述べる。 「……いつも見てきたんだから、わかるでしょ?」 「ん、まあ」  私の欲求を知り、悦楽をコントロールしてくる弟。そんな私たちの関係も、今日までだ。 「付き合ってくれてありがとね。それから、ごめんなさい」 「いいよ、姉ちゃんが変態なのは十分わかったから」  からかっているのか、はにかんだ笑顔でそう返してきた。私の中にある罪悪感は、快感の材料になってしまっている。だから謝罪は本心でも、満足感に浸っている私もいる。弟はそのことを知っているようだった。  弟は私の髪に手櫛を入れ、指をすべらせた。弟が私に与える、最後の愛撫だろうと理解する。 「結婚、おめでとう」  弟は私の髪を梳き終えたあと、そう言った。