泣きながら、吐きそうと言った。 否、吐きながら泣きそうと言った。 違う、吐きたい、泣きたいと暴れた。 そうではない、泣きながら吐いて、力尽きて暴れなかった。 いずれにしても先刻の出来事に心が耐えられず、その苦しさを増幅しながら体は反応していた。 出て行って、これ以上侵食しないで。 心の中で唱えているのか、声に出して叫んでいるのか、自分ではわからない。 幸いにも周囲に人はおらず、時々眩しい光を放ちながら車が横を通り過ぎるだけだった。 この状態を誰かに見られたらただでは済まないだろう。 飲まされた物が体に残っているせいか、視界はうねり、千鳥足になり、思考の自由も奪われている。 「君は帰るんだ」 重力に負けきった体を支えながらそう促すゆたかは、今の洋子にはただ一つの救いだった。 「嫌だ。一緒にいく」 状態を考えれば同行することがいかに迷惑か感じてはいた。 それでもただ一人の、自分のような人間が傍に居ることを許してくれたゆたかと行動を共にしないことは、その先に待つ果てない孤独を意味していた。 孤独。 体が散々な状態でも生きていける気はする、しかし心は別だ。 今だってゆたかが居なければ、突き落とされた自分はどこへ終着していたのだろう。 この世に存在して良いと初めて許可されたその幸福から、必要でなくなったことを表したそれを受け取った時の絶望感、その感情の振り幅。 どこにもやれない苦しさを投げつけ、ゆたかはそれを止めてくれた。 耐性がなくても、必要とされるならばそれをしないと。 私の存在価値は金銭に変えられるそれだけだ。 お金を持てば、ゆたかの役に立てる。 確かな利用目的になれる。 でも本当にそうだろうか。 毎回、今日のようになっては、足手まといなだけではないだろうか。 思い出したせいなのか、残留物のせいなのか、再び嘔吐する。 気がつけば太股に温かみを感じ、失禁していることを知る。 ゆたかは洋子の背をさすり、説得を続けていた。 「君には難しい」 毛羽立った気持ちを整えるかのようなゆたかの動作は、ますます洋子を追い詰めた。 「ゆたかの必要にもなれないの」 困らせることはわかっていた。 それでも不甲斐なさを処理する力さえ残っていなかった。 「同じようになって欲しくないんだよ。君にはまだ……がある」 言葉が認識できなくても、火を灯されるように、不思議と洋子のむなしさは和らいでいった。 そのせいかすっと意識が遠き、蒸発するように負の感情が消え去った。